夜の匂い
私、夜の匂いがすきなんです。
夜って言っても、0時くらいの、人の生活の匂いが消え始める時間。
人が動かなくなると、植物が風に揺られて、心地のいい香りを飛ばすんです。
どんなに小さな町でも、朝8時には、柔軟剤のにおいや、ご飯のにおい、車の排気ガスのにおいが徐々に混ざり始める。
だから夜の方が昼よりも植物の香りがする。
人やものが動かなくなってしばらくすると、空気が落ち着いてくる。
人の出すにおいが消えると、空気がすんとする。
静寂の香り。
夕飯の匂い
夕暮れ、帰路を歩いていると、夕飯のにおいがすること、あるじゃないですか。
あ、この家は肉じゃがだ。カレーかもなあとか、野菜炒めだ、とか。
お野菜やお肉の加熱されたうまみが、どこかの家の換気扇から漂ってくる。
ある朝散歩していた時に、ふと気づいたんです。
朝ごはんの匂いと、夜ごはんの匂いって違うなあって。
同じごはんの匂いなのに、なんで違うんだろうって思ったんですけど、
朝ごはんの匂いは、炊き立てのお米や、焼けたパンの優しい匂い。
きっと朝は、静寂の後の一番最初の香りだから、弱い香りでも鼻に届く。
夜ごはんの匂いは、主食よりも、おかずの香り。
人々の生活の匂いが混ざっている空気だから、強いにおいが鼻まで届く。
そしてもう一つ思うのが
朝ごはんはいってらっしゃいの匂いで、夜ごはんはおかえりの匂い。
背中を押してくれる匂いと、おつかれさまと抱きしめてくれる匂い。
匂いに温度があるみたいだなあと、ふと思うのでした。
4月の静寂
夜の植物の匂いは、どこかひんやりとしているのに、寒くはない。
肌に当てたくなるような冷たさで、昼間の余計な熱を奪ってくれる気がする。
30度近くまで上がる日々が続くとはいえ、4月の夜は肌寒い。
けれども、新緑の香りと、次々に咲く花々の香りは、私にTシャツの袖をまくらせる。
露出した肩で、夜の風を浴びるのは、とても気持ちがいいのである。
漂うは、4月の静寂。5月の緑が顔を出している。